2006.10.01
DT DESIGN AWARDS 2006 募集要項を発表しました。

 
 


 
「特殊と普遍」/その解説  by 黒川雅之

3.規格と大量生産・・・多様化時代だからこそ普遍的商品を求める

近代になって道具が大量生産されることになる。大量生産は道具かその部品を規格化することで可能となる。そこではそれを使う人々自体の標準的な捉え方が要求される。手のサイズ、技量の程度、好みから癖まで一定のパターンを前提として始めて量産化ができる。
量産が一般化する産業化初期にはまだ人自体がパターン化しやすい時代であった。高度成長期と言われる1960年代から80年代までは中産階級と言われるグループが「現代的で好ましいファッショナブルな階層」と人々は考えていてだれでもそれに属していると主張する時代でもあった。人々が「そうありたい」と目指していた価値観とその好みのパターンが存在する時代には標準化は簡単である。圧倒的な数の消費者をパターン化することができたことで当時の日本の産業は圧倒的な大量生産の構造をつくりあげ海外マーケットを対象とすることなく、国内だけで十分な需要を確保することが出来、大量生産を押し進めることになった。
この夢の時代が過ぎて次第に人々は「自分らしさ」を探すようになる。情報の爆発的な発展が中産階級のパターン化された夢を消し去っていく。女性が社会の主役の一人として登場し、老齢化が消費者の多様化を促進する。一人一人の権利を大切にする思想が根を張り、多様な好みを持つ人々がすべて主役として社会を構成するというヴィジョンが当たり前となり、大量生産のための標準化という思想を揺るがし始めた。
生産ラインの工夫で多様な部品を組み込んで多様な製品を連続的に生産する仕組みを工夫したり、多品種少量生産の可能な仕組みを考えたり、そのために特定の顧客だけにターゲットを定めた商品を企てることも始まることになる。一つの製品を多様にカスタマイズする仕掛を工夫すること、一つの製品でも多様な人々が利用できるようにとユニバーサルデザインの思想も広がることになる。
手作りでも一つずつ顧客のために制作するビジネスももてはやされるようになった。多様な生産と供給の方法が研究されるようになった。
そのすべては多様性の時代にだれでも使える、普遍性をもった商品をどう生み出すかにつながっていく。様々な方法を考えるとしても主流を成す思想は「多様なマーケットに標準化された商品を大量に供給する」ことから逃げ出すことは出来ない。小さな企業ならターゲットを絞り少量生産することだけで事足りるのだがメジャーな産業ではそうはいかない。
そこから「方法としての標準化」ではなく、「思想としての普遍化」の発想が生まれてくる。「なんとか多くの人々が満足してくれる普遍的な商品」ではなく、「そもそものその物の原型ともいえる普遍的商品」が求められるようになる。